2025年10月11日土曜日

▶ 大学まで出ても、考えたことがほとんどない人々の運命


「知識はどんどん忘れてしまって構わない。忘れてもよいと思いながら忘れられなかった知見によって、一人ひとりの個性は形成され、そこから新しい思考やひらめきが生まれる。思考の整理とは、いかにうまく忘れるかである」(日経ビジネス 2019年4月 外山滋比古)

■ AI時代に重要なのは知識を覚えることより自分で考え失敗すること

 私が『思考の整理学』を書いてから36年になります。ずいぶん時間がたちましたが、東京大学や京都大学の生協で書籍販売ランキングが毎年上位となるなど、ロングセラーとして読み続けられています。私が書いたのは、すべて自分で考えてきたことです。人のまねをしていないから、ずっと読まれているのだと思います。

 そして、この本で私が伝えたかったのはまさに自分の頭で考える大切さです。学校での教育は、これまで主に知識を身につけることだとされてきました。その一方で、学校では考えることについてあまり教えてきませんでした。結果として、小学校から大学まで学び続けても、多くの人は「考えたことがほとんどない」のです。

 身につけた知識は、もちろんさまざまな点で参考にはなります。だからといって、いつまでも覚えておく必要はありません。むしろどんどん忘れていいと私は考えています。忘れることが心配ならば、記録して必要に応じて見直せばいいのです。

 もっと言えば、知識はどんどん忘れてしまって構いません。

 いくら忘れようとしても、その人の深部の興味や関心とつながっていることは忘れません。忘れてもよいと思いながら忘れられなかった知見によって、一人ひとりの個性は形成され、そこから新しい思考やひらめきが生まれます。こうして考えるのでなければ、真に創造的なことはできません。その意味で思考の整理とは「いかにうまく忘れるか」だといえます。

 このところのAI(人工知能)の発達によって、考えることの重要性は高まっていると思います。知識という点ではどれだけ優秀な人でもAIに太刀打ちできないからです。

 一昔前までならば大学を卒業する、特に文系学部の学生にとって金融機関は魅力的な就職先であり、優秀な人材の受け入れ先となってきました。これは金融機関が知識を最も生かせる場だったからでした。ところが今や金融機関では、仕事の大きな部分がAIに取って代わられようとしています。金融機関がこのところ大幅な人員削減を打ち出しているのもこのためです。AIに代わりつつある職場で働いてきた人は「これからどうしようか」と悩んでいます。

 私は36年前に想像力を飛行機になぞらえて「自分で翔(と)べない人間はコンピューターに仕事を奪われる」と書きましたが、いよいよその傾向が強まっているのです。

 「それまでのあり方が役立たなくなる」という意味では、これは産業革命以来の出来事だといえるかもしれません。私は一種の「知的大革命だ」と見ています。だからこそ、これからはAIと知識で競うのではないあり方、つまり考えることが大切です。

 忘れてならないのは人間が本来、考える力を持っていることです。赤ん坊は生まれてからしばらくの間、いろいろなことを覚えていくのはこのためです。本来持っている能力を生かしていけばいいのです。

 考える力を養うことは、ひらめきを得ることにもつながります。知識は覚えればすぐに使えますが、ひらめきには結びつきません。自分で考え失敗することで、人はひらめき、成功にたどり着くことができるのです。(談)


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