2010年2月21日日曜日

香水

このお話は、私の知人に紹介していただいたものです。とても、感動的なお話ですので、皆さんにご紹介します。作者不詳の外国のお話を翻訳したものです。
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新学年が始まった最初の日、彼女が受け持つことになった5年生のクラスで、教壇に立って子供たちを前にして、心にもない挨拶をした。どの教師もするように、彼女は子供たちを見渡してから、分け隔てなくみんな同じように生徒を好いている、と話した。ところが、実は本心ではなかった。最前列に元気がなく座っている小柄なテディ・ストダートいう男子生徒がいたからだ。

ミセス・トンプソン先生は一年ほど前からテディを見ていたが 彼は他の生徒たちと上手く解け合っていないし、身だしなみが悪く、お風呂に入っていないかのように何時も汚くしていた。それに不愉快だった。

太い赤ペンで、テディの答案用紙にバツ印を幾つもつけたあげく、最後に「F」と書き込むときにミセス・トンプソン先生は快感を覚えるくらい、彼が嫌いだった。
その学校の制度に従って、ミセス・シンプソン先生は各生徒の内申書を過去にさかのぼって見直さなければならなかったが、テディの記録を一番後回しにしておいた。ところが、彼の記録を調べてみたときにすっかり驚かされてしまった。

テディが一年生だった時の先生は「テディは常に笑いを持ち合わせている聡明な生徒。いつもキチンと学習を行い、礼儀正しく...周りの生徒を喜ばせる」と記していた。

2学年を受け持ったときの先生はテディについて「クラスの仲間によく好かれる優秀な生徒。しかし母親が末期症状の病気で床に伏し、家庭の生活は厳しいに違いなく、心配である」と書いている。

3学年のとき担任だった先生の記録。「母親の死はテディにとっては厳しい。彼は一生懸命に努力しているが、父親が無関心であるために、何らかの対策を講じないと、じきに彼の家庭生活に差し障りが起こるであろう」

テディが4学年のときの先生は「よそよそしく孤立している。学校には関心を示さず、友人も少ない。ときどき教室で居眠りをする」と記している。

今、なにが問題であったかをはっきり知って、ミセス・トンプソン先生は自分自身を恥じた。テディ以外の生徒がそれぞれ明るい色の包装紙に包んで、きれいなリボンを掛けたクリスマス・プレゼントを持ってきてくれたときには、彼女はいっそうのこと、つらい思いをした。テディのプレゼントは、食料品店の厚みのある褐色の紙袋を一枚に広げた紙で不器用にくるんだものだった。

ミセス・トンプソン先生は寄せ集まっている他のプレゼントの中ごろにおいてある、その包みを開くのがつらかった。彼女が包みを開いて、中から何個か石が無くなっている模造ダイアモンドのブレスレットと四分の一ほど残っている香水ビンをとりだしたときに、生徒の何人かが笑い出した。しかし、先生はなんと綺麗なんでしょう、といってブレスレットを身につけ、香水を手首に軽く塗って、生徒の笑い声を抑えた。テディ・ストダードは当日の放課後、みんなが下校すると、そっとミセス・トンプソン先生にいった。「今日の先生は、ちょうど何時ものママのような匂いがしました」子供が去った後、先生は長いこと泣いていた。

その日こそは、彼女が読み書き算数を教えるのではなく、子供たちに学ばせるように、教え方を改めることにした日であった。先生はテディに特別に注意を払った。彼女がテディと一緒になって考えたりするとき、彼の心が活きいきしてくるようにみえた。彼女が励ませば励ますほど、それにどんどん応えた。その年が終るころには、テディはクラスで最も優秀な生徒の1人になっていた。そして、彼女が始めの挨拶で、クラスの全員が好きだ、などと言ったのは嘘だったが、今ではテディは「先生のお気に入りの生徒」の1人だった。

それから一年たったある日、ドアの隙間からのぞいている一通の手紙を見つけた。テディからで、そこには彼が生きてきた今までの人生で、ミセス・トンプソンが最もいい先生だった、と記されてあった。

彼女がテディから2通目の手紙を受け取った時には6年の歳月が流れていた。手紙には、高校を卒業した、成績はクラスでは3番だった、今までの人生において彼女が一番いい先生だった、と書かれていた。

それから4年が過ぎ、また手紙を受け取った。今回、彼は学士号を取得した後に更に先に進むことにした、としたためてあった。手紙に、彼女がいまだに一番いい先生で、好きだった、と書いてある。今度の手紙にしたためられている彼の名前は少し長くなっていた。署名はセオドア・F.・ストダード MD(Medical Doctor=医師)となっていた。話は更に続く。

じつはその春、もう一通の手紙が来ていたのだ。テディにはある女性との出会いがあった。この女性と結婚するつもりであると書いてある。彼の説明の中で、父親が2、3年前に亡くなったこと、ミセス・トンプソン先生に、結婚式の際に通常は花婿の母親が座る席に着席していただきたいこと、だがお受けしていただけるかどうか気にしていること、などが書かれていた。
言うまでもなくミセス・トンプソン先生は引き受けた。そればかりか、先生は石が幾つか欠けている例の模造ダイアモンドのブレスレットを着用した。そのうえ、彼女は最後のクリスマスの日、テディに母親を思い出させたときの香水を念入りにつけた。

二人は抱きしめあい、ストダード博士はミセス・トンプソン先生の耳もとで囁いた。「先生、私を信じてくださり、本当に有難うございました。先生は私に、私自身の存在価値を感得させて下さいました。私がひとかどのことが出来る、とお示し下さったことに心から感謝しています」

ミセス・トンプソン先生は目に涙を浮べて囁き返して、言った。「テディ、それは全部違いますよ。あなたこそ私に、役に立つことが出来るんだ、と教えてくれたのです。あなたに会って、初めて教えるということはどういうことなのか知ったのです。」

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