ミシシッピ河で渡し船を営む主人が、有能な水先案内人を募集した。応募者は何人かいたが、最終的に二人が面接に残った。
一人目の男は、胸を張ってこう言った。
「私はずっと水先案内をやっていて、慎重に操船してきました。長年ミシシッピ河を走ってきましたが、一度たりとも失敗したことはありません。どうか私を雇ってください」
次に現れたもう一人は、こう切り出した。
「おらも長年ミシシッピ河で船を扱ってきたが……いやぁ、数え切れねえほど失敗して、死にかけたことも何度もあります。けんど、そのおかげでどこに浅瀬があり、どのあたりが難所かは、だいたい身に染みて知っとります」
主人はその言葉を聞いて、思わず膝を打った。
「本当に頼れる水先案内人はお前だ。私は、そういう人を探していたのだ」
こうして、失敗を重ねてきた二人目の男が採用されたという。
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失敗のない者は、ただ運がよかっただけかもしれない。
けれど、失敗から立ち上がり、そのつど学んできた者は、川底の癖まで体で知っている。危険の匂いも、浅瀬の気配も、経験が教えてくれる。
ミシシッピ河の主人が選んだのは、完璧な経歴よりも、転び方を知っている人だった。
人の命を預かる仕事に必要なのは、きっと「失敗の数」ではなく、「そこから何を学んだか」なのだろう。
