2010年2月21日日曜日

魔法の香水



このお話は、私の知人に紹介していただいたものです。とても、感動的なお話ですので、皆さんにご紹介します。作者不詳の外国のお話を翻訳したものです。

この文章はエリザベス・シランス・バラッドにより1976年に発表されました。日本では「こころのチキンスープ(2)」という本に収録されています。

 

ある先生が、先入観をもって接していたひとりの子どもに対する見方を変えたことにより、少年もそして先生自身も大きく人生が変わっていくのです。とても多くの示唆を与えてくれます。


ある小学校の先生ミセストンプソンと少年の物語です。子どもと関わる人にはぜひ読んでほしいと思いご紹介いたします。

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女性の名前はミセス・トンプソン。新年度の最初の日、受け持ちになった小学校5年生の生徒たちを前に、彼女は一つ嘘をついてしまった。よく他の先生もやるように、子供たち全員を見渡しながらこう言ったのだ。
「先生は、あなたたちみんなのことが大好きよ」と。

でも、それはどう考えても嘘だった。なぜなら教室の最前列に、テディ・スタッダードという名の小柄な一人の少年が、だらしない姿勢で座っていたからだ。去年からテディを見ていたトンプソン先生は気づいていた。彼が他の生徒たちと仲よく遊べないこと、汚い服を着ていていつも体がにおっていることに・・・。

おまけに、テディはなんだか気に障る生徒だった。太い赤サインペンで、テディのテストに採点をすると胸がスカッとした。答案用紙に大きなバツをつけ、一番上に大きく「やり直し」と書くのが楽しみだったのだ。

学校から生徒の過去の記録を見るよう言われていたが、トンプソン先生はテディの記録を最後まで見ずに放っておいた。でも、とうとう意を決して彼のファイルを読みはじめた途端、驚いてしまった。

テディの一年生のときの担任が、こんな記録を残していたのだ。
「テディはよく笑う、明るい子供だ。言われたことはきちんとやるし、行儀もよい・・・そばにいるだけで楽しくなる生徒だ」

二年のときの担任は、こんなことを書いていた。
「テディは優秀な生徒だし、クラスメートにも好かれている。だがお母さんが不治の病にかかってしまってから様子がおかしい。おそらく家庭生活がうまくいっていないのだろう」

三年のときの担任は、こう書いていた。
「お母さんの死は、テディにとって辛すぎる出来事だった。彼自身はがんばろうとしているが、お父さんが息子にあまり関心を示さない。あの家庭生活を何とかしないと、じきにテディにも悪影響が出てしまうだろう」

四年のときの担任は、こう書いていた。
「テディは引きこもってしまい、学校生活にもほとんど興味を示さない。友だちも少なく、授業中に居眠りをすることもある」

トンプソン先生は、もう問題の深刻さに気づいていた。そして自分自身を恥じる気持ちでいっぱいだった。その年のクリスマスの日、クラスの生徒たちからプレゼントをもらったときは、さらに、いたたまれない気持ちになった。

プレゼントのほとんどは明るい色の包装紙にくるまれ、美しいリボンがかかっている。でもテディのプレゼントだけは重苦しい茶色の紙で、不器用に包まれていたのだ。 おそらく、食料雑貨店の袋で何とか形を整えたのだろう。

トンプソン先生は、他の生徒たちの前で気を遣いながらそのプレゼントを開けた。案の定、何人かの生徒がくすくす笑いはじめた。

中に入っていたのは、石がいくつか欠けたラインストーンのブレスレットと使いかけの古びた香水のビンだったのだ。

だが、トンプソン先生はこう言った。「なんてきれいなブレスレットなんでしょう!」すると生徒たちの笑いはおさまった。さらに先生はブレスレットをはめ、その手首に香水をそっと押し当てたのだ。

その日テディ・スタッダードは放課後まで残り、一言こう言ったのだ。

「トンプソン先生、今日はぼくのママと同じ匂いがするね」

その日生徒が帰宅したあと、トンプソン先生は1時間以上泣き続けた。

そしてまさにその日を境に、彼女はただ読み書きや算数を教えることをやめ、子供たちに本当の「教育」を始めたのである。

トンプソン先生は、特にテディに注意を払うようにした。共に学ぶにつれ、テディは少しずつ心を取り戻していくようだった。先生から励まされるほど、質問にもすばやく答えられるようになっていった。そしてその年度末、なんとテディはクラスの中でも一番成績のよいグループに入ることができたのだ。

嘘がとうとう本当になった。テディもトンプソン先生の「大好きな生徒」の仲間入りを果たしたのである。

1年後、トンプソン先生は自宅のドアの下に、一枚のメモが挟み込まれているのに気づいた。 それはテディからのメモだった。そこにはこう書かれていた。

「先生は、ぼくのこれまでの人生の中で一番すばらしい先生です。今でもそのことにかわりはありません」

それから6年後、トンプソン先生は再びテディからのメモを見つけた。そこにはこう書かれていた。
「僕はクラス3番の成績で高校を卒業することができました。先生は、僕のこれまでの人生の中で一番すばらしい先生です。今でも感謝しています」

さらにそれから4年後、トンプソン先生はテディから一通の手紙を受け取った。そこにはこう書かれていた。
「くじけそうなときもありましたが、なんとか学校に通い続け、首席で大学を卒業することになりました。先生は、僕のこれまでの人生の中で一番すばらしく大好きな先生です。今でもそのことに変わりはありません」

そして4年が過ぎ、トンプソン先生はテディから再び手紙を受け取った。そこにはこう書かれていた。
「学位取得後、さらに勉強を続けることにしました。トンプソン先生は、私のこれまでの人生の中で一番すばらしく、大好きな先生です。今でもそう思っています」
----- でも今回の手紙には大きな変化があった。テディの名前に、こんな新しい肩書きがついていたのだ。
「医学博士、セオドア(テディ)・スタッダードより」

物語はまだ終りではない。そう、その年の春、先生のもとにテディから5通目の手紙が届いたのだ。そこにはこう書かれていた。
「私はある女性と出会い結婚することになりました。父は数年前に亡くなってしまいました。もしできれば先生に私の母親の席に座っていただきたいのですが」

もちろん、トンプソン先生はこの申し出を受けた。しかも、あの石がいくつか欠けたラインストーンのブレスレットをはめ、テディの亡き母親と同じ香水をつけて。

結婚式当日、ふたりは固く抱き合った。テディことスタッダード博士は、トンプソン先生にこう囁いた。
「先生、僕を信じてくれてありがとう。自分は大切な存在だ、やれば出来る人間だ、と気づかせてくれて本当にありがとう」

トンプソン先生は涙を浮かべながら、こう囁き返した。
「テディ、そうじゃないわ。私にやれば出来る人間だと気づかせてくれたのはあなたよ。私はあなたに会ったからこそ、本当の教育を知ることができたのよ」
人は変わることができる、いつでも。