2007年3月21日水曜日

金子みすゞのポエムコレクション

金子みすずの良い詩です。 みんな、それぞれに良いところがあり、それぞれに楽しみがある。 それで良いんじゃないか、という詩ですね。 あんまり、ぎすぎすしないで、みすゞさんみたいに、大らかに生きたいのもですね。
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金子 みすゞ(かねこ みすず、本名:金子 テル〈かねこ テル〉、1903年〈明治36年〉4月11日 - 1930年〈昭和5年〉3月10日)は、大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した日本の童謡詩人。26歳で夭逝するまで約500編の詩を遺した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/金子みすゞ
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 花のたましい

散ったお花のたましいは
み仏さまの花ぞのに
ひとつ残らずうまれるの

だって、お花はやさしくて
おてんとうさまが呼ぶときに
ぱっとひらいて、ほほえんで
蝶々にあまい蜜をやり
人にゃ匂いをみなくれて

風がおいでと呼ぶときに
やはりすなおについてゆき

なきがらさえも、ままごとの
御飯になってくれるから

つもった雪

上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。
下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。
中の雪
さみしかろな。
空も地面(じべた)もみえないで。

お魚

海の魚はかはいそう
お米は人に作られる、
牛は牧場で飼はれてる、
鯉もお池で麩を貰ふ。
けれども海のお魚は
なんにも世話にならないし
いたづら一つしないのに
かうして私に食べられる。
ほんとに魚はかはいさう。

大漁

朝焼け小焼だ
大漁だ
大羽鰮(いわし)の
大漁だ。
浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰮のとむらい
するだろう

私と小鳥と鈴と

私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(じべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。

ふしぎ 
        
わたしはふしぎでたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀にひかっていることが。
わたしはふしぎでたまらない、
青いくわのはたべている、
かいこが白くなることが。
わたしはふしぎでたまらない、
だれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。
わたしはふしぎでたまらない、
たれにきいてもわらってて、
あたりまえだ、ということが。



こッつん こッつん
ぶたれる土は
よいはたけになって
よい麦生むよ。
朝からばんまで
ふまれる土は
よいみちになって
車を通すよ。
ぶたれぬ土は
ふまれぬ土は
いらない土か。
いえいえそれは
名のない草の
おやどをするよ。

花のたましい

散ったお花のたましいは、
み仏さまの花ぞのに、
ひとつ残らず生まれるの。
だって、お花はやさしくて、
おてんとさまが呼ぶときに、
ぱっとひらいて、ほほえんで、
蝶々にあまい蜜をやり、
人にゃ匂いをみなくれて、
風がおいでとよぶときに、
やはりすなおについてゆき、
なきがらさえも、ままごとの
御飯になってくれるから。



お花が散って 実が熟れて、
その実が落ちて 葉が落ちて、
それから芽が出て 花が咲く。
そうして何べん まわったら、
この木は御用がすむかしら。



だれのもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
お花がほろりとないたこと。もしも噂がひろまって
蜂のお耳にはいったら、
わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。

もくせい 
        
もくせいのにおいが
庭いっぱい。
おもての風が、
ご門のとこで、
はいろか、やめよか、
そうだんしてた。
              
星とたんぽぽ
        
青いお空のそこふかく、
海のこいしのそのように、
夜がくるまでしずんでる、
昼のお星はめにみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ。
見えぬものでもあるんだよ。
ちってすがれたたんぽぽの、
かわらのすきに、だァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根はめにみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ。
見えぬものでもあるんだよ。 

こころ

おかあさまは
おとなで大きいけれど
おかあさまのこころはちいさい
だって、おかあさまはいいました、
ちいさいわたしでいっぱいだって
わたしは子どもで
ちいさいけれど、
ちいさいわたしのこころは大きい
だって、大きいおかあさまで
まだいっぱいにならないで
いろんなことをおもうから。

井戸ばたで

お母さまは、お洗濯。
たらいの中をみていたら、
しゃぼんの泡にたくさんの、
ちいさな お空が光ってて、
ちいさな 私がのぞいてる。
こんなに 小さくなれるのよ、
こんなに たくさんになれるのよ、
わたしは 魔法つかいなの。
何かいいことして遊ぼ、
つるべの縄に 蜂がいる、
私も蜂になってあすぼ。
ふっと、見えなくなったって、
母さま、心配しないでね、
ここの、この空飛ぶだけよ。
こんなに青い、青ぞらが、
わたしの翅に触るのは、
どんなに、どんなに、いい気持。
つかれりゃ、そこの石竹の、
花にとまって蜜吸って、
花のおはなしきいてるの。
ちいさい 蜂にならなけりゃ、
とても聞こえぬ おはなしを、
日暮れまででも、きいてるの。
なんだか 蜂になったよう、
なんだか お空を飛んだよう、
とても嬉しくなりました。

さくらの木

もしも、母さんが叱らなきゃ、
咲いたさくらのあの枝へ、
ちょいとのぼってみたいのよ。
一番目の枝までのぼったら、
町がかすみのなかにみえ、
お噺のくにのようでしょう。
三番目の枝に腰かけて、
お花のなかにつつまれりゃ、
私がお花の姫さまで、
ふしぎな灰でもふりまいて、
咲かせたような、氣がしましょう。
もしも誰かがみつけなきゃ、
ちょいとのぼつてみたいのよ。

空色の花

青いお空の色してる
小さい花よ、よくお聴き。
むかし、ここらに黒い瞳の、
かわいい女の子があって、
さっき私のしてたよに、
いつもお空をみていたの。
一日青ぞら映るので、
お瞳はいつか、空いろの、
小さな花になっちゃって、
いまもお空をみているの。
花よ、わたしのお噺が、
もしもちがっていないなら、
おまえはえらい博士より、
ほんとの空を知っていよ。
いつも私が空をみて、
たくさん、たくさん、考えて、
ひとつもほんとは知らぬこと、
みんなみていよ、知っていよ。
えらいお花はだまって、
ぢっとお空をみつめてる。
空に染まった青い瞳で、
いまも、飽きずにみつめてる。

明るい方へ

明るい方へ 明るい方へ。
一つの葉でも 陽の洩るとこへ。
藪かげの草は。
明るい方へ 明るい方へ。
翅は焦げよと 灯のあるとこへ。
夜飛ぶ蟲は。
明るい方へ 明るい方へ。
一分もひろく 日の射すとこへ。
都會に住む子等は。

お花だったら

もしも私がお花なら、
とてもいい子になれるだろ。
ものが言えなきゃ、あるけなきゃ、
なんでおいたをするものか。
だけど、誰かがやって来て、
いやな花だといったなら、
すぐに怒ってしぼむだろ。
もしもお花になったって、
やっばしいい子にゃなれまいな、
お花のようにはなれまいな。

金魚

月はいきするたびごとに
あのやはらかな、なつかしい
月のひかりを吐くのです。
花はいきするたびごとに
あのきよらかな、かぐはしい
花のにほいをはくのです。
金魚はいきするたびごとに
あのお噺の継子のやうに
きれいな寶玉をはくのです。

金魚のお墓

暗い、さみしい、土のなか
金魚はなにをみつめてる。
夏のお池の藻の花と、
揺れる光のまぼろしを。
靜かな、靜かな、土のなか、
金魚はなにをきいてゐる。
そつと落葉の上をゆく、
夜のしぐれのあしおとを。
冷たい、冷たい、土のなか、
金魚はなにをおもつてる。
金魚屋の荷のなかにゐた、
むかしの、むかしの、友だちを。

げんげ

ひばり聴き聴き摘んでたら、
にぎり切れなくなりました。
持ってかえればしおれます、
しおれりゃ、誰かが捨てましょう。
きのうのように、ごみ箱へ。
私はかえるみちみちで、
花のないとこみつけては、
はらり、はらりと、撒きました。
春のつかいのするように。

げんげの葉の唄

花は摘まれて
どこへゆく
ここには青い空があり
うたう雲雀があるけれど
あのたのしげな旅びとの
風のゆくてが
おもわれる
花のつけ根をさぐってる
あの愛らしい手のなかに
私を摘む手は
ないか知ら

仲なおり

げんげのあぜみち、春がすみ、
むこうにあの子が立っていた。
あの子はげんげを持っていた、
私も、げんげを摘んでいた。
あの子が笑ふ、と、氣がつけば、
私も知らずに笑ってた。
げんげのあぜみち、春がすみ、
ピイチク雲雀が啼いていた。

れんげ

ひィらいた
つゥぼんだ、
お寺の池で
れんげの花が。
ひィらいた
つゥぼんだ、
お寺の庭で
手つないだ子供。
ひィらいた
つゥぼんだ、
お寺のそとで
お家が、町が。

林檎畑

七つの星のそのしたの、
誰も知らない雪国に、
林檎ばたけがありました。
枝もむすばず、人もいず、
なかの古樹の大枝に、
鐘がかかっているばかり。
ひとつ林檎をもいだ子は、
ひとつお鐘をならします。
ひとつお鐘がひびくとき、
ひとつお花がひらきます。
七つの星のしたを行く
馬橇の上の旅びとは、
とおいお鐘をききました。
とおいその音きくときに、
凍ったこころはとけました、
みんな泪になりました。

郵便局の椿

あかい椿がさいていた、
郵便局がなつかしい。
いつもすがって雲を見た、
黒い御門がなつかしい。
ちいさな白い前かけに、
赤い椿をひろっては、
郵便さんに笑われた、
いつかのあの日がなつかしい。
あかい椿は伐られたし、
黒い御門もこわされて、
ペンキの匂うあたらしい、
郵便局がたちました。

蜂と神さま

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町の中に、
町は日本の中に
日本は世界の中に
世界は神さまの中に。
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂の中に。

水と影

お空のかげは、
水のなかにいっぱい。
お空のふちに、
木立もうつる、
野茨もうつる。
水はすなお、
なんの影も映す。
みずのかげは、
木立のしげみにちらちら。
明るい影よ、
すずしい影よ、
ゆれてる影よ。
水はつつましい、
自分の影は小さい。

つつじ

小山のうえに
ひとりいて
赤いつつじの
蜜を吸う
どこまで青い
春の空
私は小さな
蟻かしら
甘いつつじの
蜜を吸う
私は黒い
蟻か知ら

落 葉

お背戸にや落ち葉がいつぱいだ、
たあれも知らないそのうちに、
こつそり掃いておきましよか。
ひとりでしようと思つたら、
ひとりで嬉しくなつて來た。
さらりと一掃(ヒトハ)き掃いたとき、
表に樂隊やつて來た。
あとで、あとでと駆け出して、
通りの角までついてつた。
そして、歸つてみた時にや、
誰か、きれいに掃いてゐた、
落葉、のこらずすててゐた。

落葉のカルタ

山路に散つたカルタは、なんの札。
金と銀との落葉の札に、
蟲くひ流の筆のあと。
山路に散つたカルタは、誰が讀む。
黒い小鳥が黒い尾はねて、
ちちッ、ちちッ、と啼いてゐる。
山路に散つたカルタは、誰がとる。
むべ山ならぬこの山かぜが、
さつと一度にさらつてく。

星とたんぽぽ

青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
畫のお星は目にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
散ってすがれたたんぽぽの、
瓦のすきに、だァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼に見えぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。 

井戸ばたで

お母さまは、お洗濯。
たらいの中をみていたら、
しゃぼんの泡にたくさんの、
ちいさな お空が光ってて、
ちいさな 私がのぞいてる。
こんなに 小さくなれるのよ、
こんなに たくさんになれるのよ、
わたしは 魔法つかいなの。
何かいいことして遊ぼ、
つるべの縄に 蜂がいる、
私も蜂になってあすぼ。
ふっと、見えなくなったって、
母さま、心配しないでね、
ここの、この空飛ぶだけよ。
こんなに青い、青ぞらが、
わたしの翅に触るのは、
どんなに、どんなに、いい気持。
つかれりゃ、そこの石竹の、
花にとまって蜜吸って、
花のおはなしきいてるの。
ちいさい 蜂にならなけりゃ、
とても聞こえぬ おはなしを、
日暮れまででも、きいてるの。
なんだか 蜂になったよう、
なんだか お空を飛んだよう、
とても嬉しくなりました。

失くなったもの

夏の渚でなくなった、
おもちゃの舟は、あの舟は、
おもちゃの島へかえったの。
月のひかりのふるなかを、
なんきん玉の渚まで。
いつか、ゆびきりしたけれど、
あれきり逢わぬ豊ちゃんは、
そらのおくにへかえったの。
蓮華のはなのふるなかを、
天童たちにまもられて。
そして、ゆうべの、トランプの、
おひげのこわい王さまは、
トランプのお国へかえったの。
ちらちら雪のふるなかを、
おくにの兵士にまもられて。
失くなったものはみんなみんな、
元のお家へかえるのよ。



空のあかるい
日のくれは、
いつも遠くで
声がする。
かごめかなんか
してるよな。
それとも
波の音のよな。
やっぱり
子供の声のよな。
なにかひもじい
日のくれは、
いつもとおくて゛
声がする。 



港に着いた舟の帆は、
みんな古びて黒いのに、
はるかの沖をゆく舟は、
光りかがやく白い帆ばかり。
はるかの沖の、あの舟は、
いつも、港へつかないで、
海とお空のさかいめばかり、
はるかに遠く行くんだよ。
かがやきながら、行くんだよ。

みえない星

空のおくには何がある。
空のおくには星がある。
星のおくには何がある。
星のおくにも星がある。
眼には見えない星がある。
みえない星は何の星。
お供の多い王様の、
ひとりの好きな たましひと、
みんなに見られた踊り子の、
かくれてゐたい たましひと。

砂の王国

私はいま
砂のお国の王様です。
お山と、谷と、野原と、川を
思う通りに変えてゆきます。
お伽噺の王様だって
自分のお国のお山や川を、
こんなに変えはしないでしょう。
私はいま
ほんとにえらい王様です。
秋は一夜に
秋は一夜にやつてくる。
二百十日に風が吹き、
二百二十日に雨が降り、
あけの夜あけにあがつたら、
その夜にこつそりやつて来る。
舟で港へあがるのか、
翅でお空を翔けるのか、
地からむくむく湧き出すか、
それは誰にもわからない、
けれども今朝はもう来てる。

夕顔

お空の星が
夕顔に、
さびしかないの、と
ききました。
お乳のいろの
夕顔は、
さびしかないわ、と
いひました。
お空の星は
それつきり、
すましてキラキラ
ひかります。
さびしくなつた
夕顔は、
だんだん下を
むきました。

水と影

お空のかげは、
水のなかにいつぱい。
お空のふちに、
木立もうつる、
野茨もうつる。
水はすなほ、
なんの影も映す。
みずのかげは、
木立のしげみにちらちら。
明るい影よ、
すずしい影よ、
ゆれてる影よ。
水はつつましい、
自分の影は小さい。

繭と墓

蠶は繭に
はいります、
きうくつそうな
あの繭に。
けれど蠶は
うれしかろ、
蝶々になつて
飛べるのよ。
人はお墓へ
はいります、
暗いさみしい
あの墓へ。
そしていい子は
翅が生え、
天使になつて
飛べるのよ。 

草原の夜

ひるまは牛がそこにゐて、
青草食べてゐたところ。
夜ふけて、
月のひかりがあるいてる。
月のひかりのさはるとき、
草はすつすとまた伸びる。
あしたも御馳走してやろと。
ひるま子供がそこにゐて、
お花をつんでゐたところ。
夜ふけて、
天使がひとりあるいてる。

天使の足のふむところ、
かはりの花がまたひらく、
あしたも子供に見せようと。

こよみと時計

こよみがあるから、こよみをわすれて
こよみをながめちゃ、四月だというよ。
こよみがなくても、こよみを知ってて
りこうな花は、四月にさくよ。
時計があるから、時計をわすれて
時計をながめちゃ、四時だというよ。
時計はなくても、時計を知ってて
りこうなとりは、四時にはなくよ。


いぬ

うちの だりあの さいたひに 
さかやの くろは しにました。
おもてで あそぶ わたしらを 
いつでも、 おこる おばさんが、
おろおろ ないて おりました。
そのひ、 がっこで その ことを
おもしろそうに、 はなしてて
ふっと さみしく なりました。
 
こだまでしょうか

「あすぼう」って いうと 「あすぼう」って いう。
「ばか」って いうと 「ばか」って いう。
「もうあすばない」って いうと 「あすばない」って いう。
そうして、あとで、さみしく なって
「ごめんね」って いうと  「ごめんね」って いう。
こだまでしょうか、
いいえだれでも。

ばあやのお話

ばあやはあれきり話さない
あのおはなしは、すきだのに。
「もう聞いたよ」といったとき
ずいぶんさびしい顔してた。
ばあやのめには、草山の、
のばらのはながうつってた。
あのおはなしがなつかしい、
もしも話してくれるなら、
五度も、十度も、おとなしく、
だまって聞いていようもの。

ふうせん

ふうせん持った子が
そばにいて、
わたしが持ってるようでした。
ぴい、とどこぞで
ふえがなる、
まつりのあとのうらどおり、
あかいふうせん、
昼の月、
春のお空にありました。
ふうせん持った子が
行っちゃって、
すこしさみしくなりました。

みんなをすきに

わたしはすきになりたいな、
何でもかんでもみいんな。
ねぎも、トマトも、おさかなも、
のこらずすきになりたいな。
うちのおかずは、みいんな、
かあさまがおつくりなったもの。
わたしはすきになりたいな、
だれでもかれでもみいんな。
お医者さんでも、からすでも、
のこらずすきになりたいな。
世界のものはみィんな、
神さまがおつくりなったもの。


もういいの

−もういいの。
−まあだだよ。
びわの木の下と、ぼたんのかげで、
かくれんぼうの子ども。
−もういいの。
−まあだだよ。
びわの木のえだと、青い実のなかで、
小鳥と、びわと。
−もういいの。
−まあだだよ。
お空のそとと、黒い土のなかで、
夏と、春と。

どんぐり

どんぐり山で、どんぐりひろて、
おぼうしにいれて、前かけにいれて、
お山をおりりゃ、おぼうしがじゃまよ、
すべればこわい、どんぐりすてて
おぼうしをかぶる。
お山を出たら、野は花ざかり、
お花をつめば、前かけじゃまよ、
とうとうどんぐり、みんなすてる。

なかなおり

げんげのあぜみち、春がすみ、
むこうにあの子が立っていた。
あの子はげんげを持っていた、
わたしも、げんげをつんでいた。
あの子がわらう、と、気がつけば、
わたしも知らずにわらってた。
げんげのあぜみち、春がすみ、
ピイチクひばりがないていた。

喧嘩のあと

ひとりになった一人になった。
むしろの上はさみしいな。
私は知らないあの子が先よ。
だけどもだけども、さみしいな。
お人形さんもひとりになった。
お人形抱いても、さみしいな。
あんずの花がほろほろほろり。
むしろの上はさみしいな。

空いろの花

青いお空の色してる、
小さい花よ、よくおきき。
むかし、ここらに黒い瞳の、
かわいい女の子があって、
さっきわたしのしてたよに、
いつもお空をみていたの。
一日青ぞらうつるので、
おめめはいつか、空いろの、
小さな花になっちゃって、
いまもお空をみているの。
花よ、わたしのおはなしが、
もしもちがっていないなら、
おまえはえらいはかせより、
ほんとの空を知っていよ。

ぬかるみ

このうらまちのぬかるみに、
青いお空がありました。
とおく、とおく、うつくしく、
すんだお空がありました。
このうらまちのぬかるみは、
深いお空でありました。

あるとき

お家のみえる角へきて、
おもいだしたの、あのことを。
わたしはもっと、ながいこと、
すねていなけりゃいけないの。
だって、かあさんはいったのよ、
「ばんまでそうしておいで」って。
だのに、みんながよびにきて、
わすれてとんで出ちゃったの。
なんだかきまりが悪いけど、
でもいいわ、
ほんとはきげんのいいほうが、
きっと、かあさんはすきだから。

たもと

たもとのゆかたはうれしいな
よそゆきみたいな気がするよ。
夕がおの花の明るい背戸へ出て
そっとおどりのまねをする。
とん、と、たたいて、手を入れて
たれか来たか、と、ちょいと見る。
あいのにおいの新しいゆかたのたもとは
うれしいな。

足ぶみ

わらびみたよな雲が出て、
空には春がきましたよ。
ひとりで青空みていたら、
ひとりで足ぶみしましたよ。
ひとりで足ぶみしていたら、
ひとりでわらえてきましたよ。
ひとりでわらってしていたら、
だれかがわらってきましたよ。
からたちかきねが芽をふいて、
小みちにも春がきましたよ。

朝顔のつる

垣がひくうて朝顔は、
どこへすがろとさがしてる。
西もひがしもみんなみて、
さがしあぐねてかんがえる。
それでもお日さまこいしゅうて、
きょうも一寸またのびる。
のびろ、朝顔、まっすぐに、
納屋のひさしがもう近い。

ゆめとうつつ

ゆめがほんとでほんとがゆめなら、
よかろうな。
ゆめじゃなんにも決まってないから、
よかろうな。
ひるまの次は、夜だってことも、
わたしが王女でないってことも、
お月さんは手ではとれないってことも、
ゆりのなかへははいれないってことも、
時計のはりは右へゆくってことも、
死んだ人たちゃいないってことも。
ほんとになんにも決まってないから、
よかろうな。
ときどきほんとをゆめにみたなら、
よかろうな。

山ざくら

さくら、さくら、山ざくら、
私は髪に挿しました。
山ひめさまになりました。
さくら、さくら、山ざくら、
その木の下に立ちました。
山ひめさまは立ちました。
さくら、さくら、山ざくら、
舞っておみせ、といいました。
山ひめさまがいいました。
さくら、さくら、山ざくら、
ひらりしゃらりと舞いました。
山ひめさまにみせました。
さくら、さくら、山ざくら、
髪から、みんな散りました。
駈け駈けかえる山みちで。